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修道士、修道女の僧院

ギョレメの教会 | ギョレメ野外博物館 | 修道士、修道女の僧院

修道士･修道女の僧院(Nunnery and Monastery)

野外博物館の入口右側に位置する6～7階建ての岩の塊は“女子修道院”として知られている。この修道院の1階には食堂、台所、いくつかの部屋、2階にはすでに破損しているが礼拝堂がある。3階にはトンネルによってつながっている教会がある。この教会には交差型ドーム、4本の円柱から成る3つのアプスがある。メインアプスの祭壇は非常に保存状態が良い。また、教会の北東側を除いて、天井は全てドーム形になっている。

壁には岩の表面に赤い塗料で描かれた幾何学模様が見てとれる。教会の北側には左手に本を持ち、右手で祝福を捧げて立っているイエスのフレスコ画があり、イエスの左手の下部に掘られた1055年という日付によると、この教会は11世紀前半のものと時代づけられる。

修道院の各階へつながる道はトンネルで確保されており、危険な状況ではトンネルを塞ぐために地下都市などで見られる“かんぬき（さし錠）石”が使われていた。女子修道院の向かいにある男子修道院では、浸食が原因で各階につながる通路は閉ざされ、入口付近にあるいくつかの部屋だけが見ることができる。

聖バジルチャペル(Chapel of St. Basil)

聖バジルチャペルはギョレメ野外博物館の入口付近に位置している。教会の入口部分と拝廊とはそれぞれ2本のアーチで分断されており、入口部分にある墓はおそらくこの教会の寄進者とその近親者のものと思われるが、誰のものであるかは不明である。この礼拝堂は11世紀のものと推定されており、長方形型設計、3つアプスがあり、長方形の拝廊の左側にある大アプスと、2つの小アプスで構成されている。また、祭壇にある3つのマルタ十字は神、神の子イエス、そして聖霊などを表している。この教会も“女子修道院”と同じように2種類の絵付けの技法が使われており、赤い塗料で岩肌に幾何学模様を描き飾り、他の所々をセッコ技法によって仕上げている。この教会は11世紀のものと時代づけられている。

場面：メインアプスではイエスの肖像画、前面にはマリアと幼少のイエス、北側の壁には馬に乗っている聖テオドレ、南側の壁には同じく馬に乗って竜と戦う聖ジョージと聖デメトリウスの2人の聖徒が見られる。

エルマル（りんご）教会(Elmali Church)

9個のドーム、4本の円柱、ギリシア式十字型設計、3アプスから構成されている。本来の入口は南側にあるこの教会は北側に掘られたトンネルによって入ることができる。エルマル教会の初期の装飾は、聖バジルと聖バーバラチャペルのように自然の岩へ赤く塗られた十字架と幾何学模様であった。教会は11世紀中頃～12世紀初めのものである。教会の壁画はイエスに関する15の場面が描かれており、3つが幼年期のもの、2つが青年期のもの、そしてその他のものは試練の日々のものである。また、中央ドームにはイエスのフレスコ画、他の7つのドームには大天使達が描かれている。しかしながら壁画の保存状態は非常に悪く、現在、イスタンブール修復保存センターの修復専門家レブザ・オジルを中心とする専門家チームにより、壁画の修復・保存が行われている。

場面：洗礼者イエス・キリスト、誕生、三賢者の参詣、洗礼、ラザロの復活、キリストの変容、エルサレム入城、最後の晩餐、ユダの裏切り、ゴルゴダへ向かうイエス、十字架のイエス、イエスの埋葬、イエスの地獄征服、空になった墓前での女達、イエスの昇天、聖徒像、同様に預言者イブラヒムのもてなし、 3人のユダヤ人の若者が焼かれる場面等も描かれている。

聖バーバラチャペル(Chapel of St. Barbara)

この教会は、おそらくギョレメ野外博物館のなかで最も旅行者の興味を引いている教会のひとつではないだろうか。

聖バーバラチャペルは、エルマル教会のある岩の背後に位置ており、整然とした建物の壁画に赤い色で小さく描かれたのモチーフの数々は、建物と上手く調和しており、抽象的かつ誇張されたモチーフは、まるでイコン画にあるような“額縁”ように聖徒達の肖像画を飾っている。そしてここを訪れた者は入口の正面にある様々な幾何学模様に驚くと共に、その宗教的な模様の多様さにも心を奪われるに違いない。初期オリエンタル式の円柱の上に作られたドームと十字型設計のこの教会は、11世紀の教会建築様式の特徴を備えている。

聖バーバラチャペルの内部の装飾は、ただ単に教会の装飾といった単純なものではなく、羅列されるように描かれた幾何学模様の数々は、かなり複雑で難解なものである。この観点からすると、これらの装飾は“イコノクラズム”（聖像破壊運動）が盛んであった8～9世紀の時代のものではないかとも考えられる。

アプスの傍にある小さなニッチの周りには、イエスと4人の聖書の著者が真珠の様に飾られた4つの三角形によって象徴されている。そして、扉に描かれた“槍の先”や“三角形をした木”をモチーフとしたこの種模様を説明するのはかなり難しいといえる。というのも、これらが“ディーシス”における聖母マリアとヨハネとの間にいるイエスを象徴したものなのか、あるいは“イエスの変容”におけるモーゼとイラスとの間にいるイエスを表したものであるのかは全く見当がつかず、これらを明らかにする事は不可能だとい言えるからである。

更に教会内部の角にあるような十字架をモチーフとした模様の数々は、“イコノクラズム”の観念を誇張した形で表している。入口の向かいに描かれた動物を表す模様にいたっては、かなり形を変えて描かれている。

場面:メインアプスにイエスの肖像画、北側十字肢手では馬上で竜と戦う聖ジョージと聖テオドレ、西側十字肢手では聖バーバラが見られる。

ユランル（聖オノフォリウス)教会(Yilanli Church)

この教会は長方形型設計で、アーチ形天井を持ち、南側には墓がある。増築された部屋は平天井であり、アプスを左側の長い壁に掘りながらも教会を完成させずに終わっている。入口は北側であり、アーチ形天井のそれぞれにカツパドキアで尊敬されている聖徒達がみられる。教会は11世紀のものである。

エジプトの砂漠で“ヘルミット”と呼ばれた人々は、1世紀ごろ信仰に身を捧げ隠遁して生きていた。

6月12日に祝われるテーベ人の聖オノフォリウスは、1世紀ごろエジプトのテーベ近郊の“ヘルモポリス”にある修道院で修行生活を始めた。しかしその後、俗世間から身を引いて孤独に生きる事こそ重要であると考えた彼は修道院を離れ、ひとり砂漠へと向かった。

最後のヘルミットである聖パフノティウスは、ヘルミットの生涯や生活用式を学ぶため、エジプトの砂漠ヘ行き、この教会の名のもととなった聖オノフェリオスと出会った。そこで彼は聖オノフェリオスより徳の深い禁欲的思想を学んだとされている。60年近く砂漠で草木の根とナツメヤシだけで生きていた聖オノフェリオスは西暦400年そこで死を迎えた。信仰伝説によると、彼がたったひとりで砂漠で生活していた時、毎週日曜日に彼のもとへ天使がやってきていたと言う。そして彼はその時に天使が与えてくれるエクワンテゥストの聖なるパンによって生き長らえていたと言われている。

聖オノフェリオスが死んだ際、聖パフノティウスはこう言った。「神はあなたをこの砂漠へと遣わせた、ここで見たこと、学んだことを世に伝えよ、天使はあなたを災いから守るであろう、そして最後の審判の時にあなたは汚れなき存在になるであろう。」この時天より天使の声と共に美しい音色が聞こえ、その美しい音色がゆっくりと静かに消えゆくと、聖パフノティウスは静かに涙を流すのであった。

場面：入口向かい側に左手に聖書を持つイエス、教会への寄進者、アーチ形天井東側には聖オノシモス、大蛇と戦う聖ジョージと聖テオドレ、真の十字架を持つヘレナとその息子コンスタンチン、西側には裸の長い髪をもつシュロの木の前に立つ聖オノフェリオス、その隣には聖トーマスと本を手に持つ聖バジルがいる。

貯蔵庫・台所・食堂(Larder/Kitchen/Refectory)

ユランル教会とカランルク教会の間に位置する 3 つの建物が隣接してつながっている。食料貯蔵庫として使われている広間は保存食料を貯えるために掘られ、台所は周辺の村々で今もなお使われている土製の“タンドゥル”と呼ばれる釜戸が見られる。奥の部分には食堂があり、入口の左側に40～50人が食事できる石製のテーブル、右側には床でブドウをつぶすためのワインセラーがある。

カランルク教会(暗闇教会)(Karanlik Church)

北側の扉は螺旋階段によって教会の拝廊つながり、その南側に墓がある。教会は十字架形設計、十字架の肢は交差形アーチ天井、中央ドーム、4本の円柱、3つのアプスがある（メインアプスのテンプロンは崩れてしまっている）。

北アプスには青い色を背景にして聖母マリアと幼少のイエス、南アプスにはイエスの家系の祖である預言者イブラヒムの肖像画がある。中央ドームにはイエスの肖像画があり、他のドームにはガブリエル、ミカエル、ラファエル、ウリエルの4天使が描かれている。

カランルク教会と名付けられたのは、拝廊部分に小さな窓からほんの少ししか光が入らないからである。このことによって壁画の色彩がかなり良い形で保存されている。

実は、これらの壁画は17世紀以降人々によって故意に削られ傷つけられたために、以前は非常に劣化した状態にあった。しかし近年トルコ、フランス、イタリア、ポーランドの壁画修復の専門家から成る“修復チーム”が結成され、彼らの手によって12年の歳月をかけて修復・保存された結果、現在のような素晴らしい教会の姿が残されたのである。教会の入口部分にはイエスと聖書の場面が豊かに描かれており、更にエルマル教会やチャクル教会にあるような旧約聖書の場面も見ることができる。中央ドームにある“ディーシス”の場面は、カッパドキアでは珍しいフレスコ画技法（漆喰が乾く前に絵付けを行う技法）によって描かれている。また、聖母マリア及びイエスとヨセフの顔の表面には絵付けを行った職人達の“爪の跡”が残っている。

この教会を建てさせた8人の寄進者のうち、2人は中央ドームに描かれ、4人は天使ガブリエルとミカエルのそばに、そして後の2人は“ナルテクス”と呼ばれる教会の入口部分にそれぞれ描かれている。

メインアプスにおいては、膝をついてイエスに祈りを捧げている2人の寄進者のうち1人に“ニコフォロス”という名があり、その銘文には“神のしもべニコフォロスの祈り”と書かれている。これら寄進者が教会で最も重要な所に描かれていることは、カッパドキア以外の他の所では見られない特徴のひとつである。

これらの他にも、北側と南側に描かれた4人の聖書の著者や、北側の壁面に医療器具を手に持つ2人の聖医ダミアンとコスマスなどの興味深い壁画もまた重要である。教会は12世紀末～13世紀初めのものと時代づけられている。場面：洗礼者イエスキリスト、受胎告知、べツレへムヘの旅、誕生、三賢者の参詣、洗礼、ラザロの復活、イエスの変容、エルサレム入城、最後の晩餐、ユダの裏切り、十字架のイ工ス、イ工スの地獄征服、空になつた墓の前の女達、イエスの昇天、預言者イブラヒムのもてなし、3人のユダヤ若者が焼かれる場面、聖徒達。

聖キャサリンチャペル(Chapel of St. Catherine)

力ランルク教会とチャルクル教会の間に位置する聖キャサリンチャペルは、十字架型設計、中央ドーム、アーチ形天井、テンプロン付きアプスで構成されている。床には9つの墓、壁にも祭壇のような墓がある。チャペルは幾何学模様の浮き彫りで飾られている。アンナという寄進者によって作られた聖キヤサリンチャペルは11世紀のものである。

場面：テンプロンをもつアプスにディーシス、その下にはメダルの中に描かれた教会の司教達（グレゴリー、バジル、ジョン・クリストン）、北側の十字架肢部分の南側には馬に乗る聖ジョージ、向い側には聖テオドレ、聖キャサリンと他の聖徒達。

チャルクル（サンダル）教会(Carikli Church)

ギョレメにおける円柱をもつ教会の中で最も小さいチャクル教会は、野外博物館の北西に位置している。

教会の北側に入口があるが、入口を入ったところの部分は崩れてしまっている。内部には、かつて修道院の一部であった部屋が3つあり、これらは中庭を挟むような形で作られている。この教会はカランルク教会やエルマル教会とはまた違った形の“閉ギリシア十字形設計”で建てられており、3つ拝廊と3つのアプスを持っている。

この教会は内部にある“イエスの昇天”場面の下の床にある“足跡”のために、“チャルクル (サンダル)教会”と名付けられているが、教会内部には十字架をモチーフとしたイコン画が多く描かれていることなどから、聖なる十字架にまつわる名付け方をされたとも考えられる。

2階建てになるように掘られたの教会内部の下の階は長方形形型設計で、食堂として使われていたと思われる。

食堂の一角にあるニッチには“最後の晩餐”のようすが描かれている。

教会内部はイエスの生涯を描いた壁画で満たされており、建物の構造に従って12に分けられる形で描かれている。

このうち3つがイエスの幼年期、2つが青年期、そしてあとの7つが試練の日々を描いたものである。

エルマル教会に描かれているような受胎告知、イエスの寺院参詣、ペンテコステ (聖霊降臨)、聖母マリア永眠、を除くキリスト教における12の大祭のうち、8つの場面が描かれている。これらは年代記のように順を追って描かれてはおらず、カランルク教会のように複雑なスタイルが用いらている。これらの絵画の手法は首都の教会などで用いられているもので、聖書の場面だけでなく他の様々な人物画を見ることができる。

教会の北部分には十字架のイエス、南東部の南側の壁には“アナスタシス”（イエスの地獄征服）が描かれている。中央ドームにはイエスの肖像画と、胸像のように上半身だけの5人の天使ガブリエル、ミカエル、ラファエル、ウリエル、ミスラエルとイエス、エマニエルが描かれている。（天使のうち3人（ガブリエル、ミカエル、ウリエル）は更に他のドームにも描かれている。）その下には聖書の著者であるマルタ、ルカ、ヨセフ、マルコが座った姿で描かれている。

天使ガブリエルが中央に描かれいるドームのまわりには“ゴルゴダへ向かうイエス”や“ラザロの復活”のどの場面が見られる。

保存状態の良いメインアプスには、エルマル教会にあるものと同じような“ディーシス”が描かれているが、ここではイエス、聖母マリアそしてヨセフは整然と並んだ形ではなく、自由な構図で描かれている。

イエスが手にしている本のページにはある文章が書かれており、一部破損しており完全に読む事ができなかったが、修復された結果、それは更に明確となった。そこには“私はこの世の光である、私と共にある者は暗闇に包まれることはないであろう”という文章が書かれていたことが判った。祭壇のまわりにはブライス、ナジアヌス出身のグレゴリー、聖バジル、クリュソストモスとパティオスが描かれているが、何者かによって故意に削られてしまって破損している。しかし、その壁画の様子から推測すると、11世紀のイコン画の様式と一致している。